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読書亡羊

気ままに読書、気ままな読書日記

渡邉正裕『10年後に食える仕事 食えない仕事』 (2012)

勤労辛苦

グローバル化の時代だからこそ日本人としての特性を活かす
 2012年刊行。
 グローバル化が進展する中で、日本の労働環境がどう変化していくかを考察している。10年という比較的近い将来のことを考える上では、非常に示唆に富む内容になっている。
 著者は、「知識集約的か、技能集約的か」「日本人としての特性を活かせるか、活かせないか」という二つの軸によって職業を4つに分類している。著者のこの分類は、非常に簡潔で分かりやすい。

 今後、特に問題となるのは、技能集約的で、かつ日本人である必要性のない職業、著者が言うところの「重力の世界」に属する職業だ。具体的には店舗店員やプログラマー、検査・組立工などだ。これらの職業は、情報技術が発達したために拠点の移動が容易であったり、人材の交代が簡単なため、賃金が今後、世界の最低水準まで引き下げられていく可能性が高い。
 だが、日本人の就労分布を見ると、就労者数の72.5%がこの職業に従事している。これから就職しようとする人や転職を考えている人は、特にこの事実に対して危機感を持つべきだと思う。そこで著者は、これから世界規模での競争の中で淘汰されないためには、日本人であることを活かした職業を目指していくべきだと提言している。

 どれだけ規制が緩和され、世界規模での競争にさらされるようになったとしても、日本語や日本人独自の感性といったものが必要とされる職業はいまだ多く、それが日本市場に対する参入障壁になっている。「日本人であること」それ自体を活かした職種は今後とも残り続けていく。
 また今後10年は日本の人口は1億を維持すると予想されるので、十分な市場規模を持っている。こうした状況判断から、日本人としての特性を活かして日本市場で活路を見出していくべきという著者の提言は非常に的を射たものだと思う。海外へ飛び出せ、英語を学べ、といったよくある議論とは一線を画していて非常に面白い。

 重力の世界に従事する人が72.5%という事実に個人が危機感を持たなければならないのは当然だが、これは雇用確保の問題であり、本来は政治がきちんと対応しなければならない問題だ。このまま国が無為無策で、市場原理に任せたままにすれば、失業率は上がり、多くの人が低賃金にあえぐことになる。欧米先進国のように、グローバル競争に勝ち残れる企業だけが業績を伸ばしても、企業は国内の雇用には何も貢献せず、好景気の中で失業率が高止まりする可能性もある。
 このような事態を避けるためにも国による雇用政策が重要になる。本書では最後の6章でこの政策の提言も行っている。

 研究開発投資へ減税し、国際的に競争できる人材を保護する。官僚が業界ごとに管理監督している現状を見直し産業を自由化する。国内の雇用に貢献している企業に対して特別減税を行う。外国人労働者の単純労働従事への規制。低所得者層への財政支援。著者があげているのは以上の5点だ。
 すべて以前からさまざまなところで指摘されていることだが、全く改善されている様子が見られない。特に外国人による単純労働は、技能研修制度や留学制度を悪用して、あらゆる企業で広く行われている。たとえばコンビニや外食チェーン店で働いている外国人労働者はほぼすべて違法就労だが、実際の取締りがほとんど行われていないために、今ではどこでも見かけるものになってしまった。労基署が全く取締りをしないためにサービス残業が蔓延したのと同じ構造がここでもまた見られるのだ。

 今後10年を考える上では、本書の指摘は非常に参考になるものだと思う。しかし、そのさらに先の未来ということになると、今の若者はもっと違う働き方を模索しているかもしれない。既得権益が蔓延して、格差が大きく、労働環境は最低で、努力が報われない、そういった国にこだわる必要そのものが、はじめから感じられなくなっているかもしれない。日本などさっさと捨てて他の国で働けば良いだけだ。10年後、人材の流出が加速するかどうかは、これからの10年の間でどれだけ日本を変えられるかに懸かっているのだろう。

10年後に食える仕事、食えない仕事

10年後に食える仕事、食えない仕事